第2回コネクテッド・インダストリーズセミナーを開催しました

今、成長が期待される産業として、医療機器産業が注目を集めています。

播磨地域には、特色ある製品開発を可能とする多様なものづくり企業が集積しており、医療分野参入への関心も高まっています。そこで医療機器ビジネスの仕組みや、当地の新しい動きをお話しいただきました。

 第 1 部 医療機器ビジネスの動向

無理なく円滑な医療機器産業への参入のかたち  ~成長する医療分野で自社の技術を活かす!~

講師:一般社団法人 日本医工ものづくりコモンズ 専務理事 

    柏野 聡彦 氏

 

 

 講演内容の要旨は以下のとおりです。

これからの医工連携は、「医」臨床ニーズ、「製販」事業化ノウハウ、「工」技術シーズによる三位一体の開発が必要です。

医療機器産業のことが分からないうちは、分かっている人=医療機器ビジネスを熟知した製販企業が参画することで、市場や法規制に基づき、円滑な製品開発を行えます。また、当初から目標製造コストを定められる事ができれば、商品化により近づけるでしょう。

そのためには、医療機器メーカーに響くPRが必要です。文字よりも写真で、医療機器の試作品や部品医療での応用イメージを、また臨床現場とのつながりや仲間の技術、行政機関とのつながり等を含んだPR資料を作成し、展示会のポスター、配布資料、Webページなどにフル活用してください。良質なPR資料があれば対話の質が向上し、売上につながる案件が得られるとともに、医療分野で着実に仕事をしていくための経営課題が明らかになってきます。

医工連携では、臨床現場、ものづくり企業、製販企業、コーディネーターなど多くの関係者が広域連携することが多く、案件化までのフォローアップのコスト(打ち合わせのための移動時間、交通費、会議費等)が大きな負担となるため、オンラインミーティングの活用をお薦めします。ミーティング頻度もアップでき、余力が生まれれば、案件数の増加にもつながり、成功率の上昇も見込めます。

また、近年はクラウドファンディングで、医療分野の成功プロジェクトが多数生まれています。中でも株式投資型クラウドファンディングは1億円未満の資金調達なので、クラス1の医療機器や非医療機器(トレーニングシステム等)の事業化に適しています。公的資金も活用出来れば大きな動きになると思います。

最後に、医工連携は臨床ニーズから始まります。医療者からの問題点・改善点の指摘をきっかけに、企業が開発製品化を行い、販売するというのは医療機器開発のごく一般的なケースです。ここで企業は医療者からの指摘を売上・利益につながる経済的価値・知的財産的価値と認識し、医療機関・医療者に対してライセンス料等の経済的還元を行います。知財面でも誠実に対応することで、医療機関等からパートナーとして信頼され、結果として競合他社に対する競争力の獲得に繋がっていくでしょう。

 

創業1909年の老舗企業が医療機器分野に参入 ~参入の経緯から上市までの取り組み~

 講師:株式会社 木幡計器製作所 代表取締役

   木幡 巌 氏

 

 

 講演内容の要旨は以下の通りです。

 

当社は、ボイラ、ポンプ、油圧機器等に使われる工産業用圧力計測機器の製造業を主としています。医療機器分野へ参入(製品開発)したきっかけは、管楽器演奏者のブレストレーニング用呼気圧計測器の製造依頼でした。製品を自社ホームページに掲載したところ、予想外に医療分野からの問い合わせをいただいたことから、呼吸計測ニーズと呼吸リハビリテーションの存在を知りました。また、先代社長である母が、呼吸器の病気で亡くなったことで、世の中のためになるものを創ることが使命だという強い思いが生まれたこともあり、製品開発を志しました。

当初は、呼気・吸気双方を同時に見られる測定器の開発をめざしましたが、今思うと無謀でした。早期事業化のため計画を変更し、呼吸筋力測定器を開発し、5年かけて薬事認証取得後、昨年11月に販売開始しました。

医療機器分野をあまり理解していない状態で参入したのですが、成長が著しい上、さまざまな面でハードルが高いため単独ではなく、連携と支援が不可欠です。支援機関に出向いて相談するとともに、医療機関の医師や医療機器参入企業の先輩たちの話を聞く事が重要です。

新たなチャレンジを始める前の準備として、事前独自調査(ネット検索)で、医学論文や統計データなどから仮説を立てます。その後、現場ニーズを熟知している医療従事者から直にヒアリングするべきなのですが、直接訪ねるわけにもいきません。私は助成金等の支援機関にフォローしてもらいました。

近年注目されているデザイン思考については、有用性を起点に人間中心のイノベーションであることが重要です。イノベーションに不可欠な3要素があります。人にとって有用か、技術的に実現可能か、医療機器としてビジネスとして成り立つのか、この3つが重なったところがイノベーションで、中でも最も大事なのは、人にとっての有用性です。他社で実際にあった例では、酸素療法用ボンベを外出用キャリーで運ぶと重いので、ロボットセンサー技術を使って自動追従型の走行カートを開発しました。しかし、街中で酸素ボンベを持ち歩くのさえ目立つのに、それが自動で動いて人についていくのは見世物のようであり、「患者さんの気持ちを考えていない」と、医師に指摘されたそうです。この事例は、デザイン思考の本質なのは「共感」だと教えてくれます。

医療機器は、人の命に対する危険の度合いで、クラスⅠからクラスⅣまで分類されており、当社はクラスⅡを作っています。医療機器の申請区分には、新医療機器、改良医療機器、後発医療機器があり、全く難易度が違います。また、医療機器を製造するには医療機器製造業、メーカーとして販売するためには医療機器製造販売業の薬事申請が必要となります。後発医療機器ならハードルは低いですし、非医療機器なら薬事申請は不要ですので、部材供給や、教育用機器、アフターサ-ビス等も一つの候補だと思います。

 経営資源(ヒト・モノ・カネ)の確保については、キャリア人材採用支援事業や設備貸与、補助金・助成金、新規事業推進のための情報、相談窓口など、多くの支援があります。特に情報は重要です。私は商工会議所のフォーラムに10回以上参加し、ヒアリングを何度も受け、展示会にも出展しました。医療のどの分野をめざすのかが決まれば、是非とも学会に行ってください。医療の学会は日本全国から専門分野の医師が集まり、発表の合間に併設の展示会で、日頃は多忙な医師の方々から、ニーズやご意見を直接聞くことができます。医療機器は製販と非常にハードルが高いように思いますが、社員17名の小さな会社が製販まで行けました。本気でやれば実現は可能です。

 

 

第 2 部 当地の動向

兵庫県立はりま姫路総合医療センター(仮称)の概要と医工連携への新たな期待

 講師:地域医療連携推進法人 はりま姫路総合医療センター 整備推進機構 理事長

          社会医療法人製鉄記念広畑病院 病院長

        木下 芳一 氏

 

 

 講演内容の要旨は以下のとおりです。

2025年には団塊の世代が75歳以上となり、日本の総人口約1億2千人のうち65歳以上が30% 3,500万人以上となります。播磨姫路医療圏には医師が少なく、病院のベッド数も少ない状況です。このため平成29年に創設された「地域医療連携推進法人制度」を活用して、兵庫県立姫路循環器病センターと製鉄記念広畑病院を統合し、「兵庫県立はりま姫路総合医療センター(仮称)」が2022年度上半期に開院する予定です。この病院、医師数約270名、予想外来患者数約1,800人/日、入院患者数約700名、平均入院日数約10日等が見込まれています。高度急性期病院に医師・看護師を多く配置して質の高い医療と手厚い看護を行うことにより、早期に回復期病院やリハビリ病院への転院が可能となります。兵庫県内の13県立病院の外来患者総数は6,200名程度で、その4分の1を新しい病院で対応できることになります。

医師は専門性の高い職業であり、また経験年数・患者数などによって能力に差があります。専門外の診療を行うと医療事故が起きかねません。こういったことが、現在の医療の問題点であり、診療所や病院の医師をサポートするシステムの構築が重要です。

今、医学・医療に大きなパラダイムシフトが起こり始めています。内視鏡など病理診断や画像診断が、AI自動診断アシストに移り変わろうとしています。このような中、医工学研究へ期待することは、使ってはいけない薬や、一緒に投与してはいけない薬を電子カルテに入力した場合、ガイドラインで禁じていることをしようとした場合などに、警告音が鳴るような機能の開発や、臓器、血管、神経の位置を3次元構築して手術の際などにシミュレーションやナビゲーションできるシステム、更には、ロボット手術の実現といったことがあります。身体に付けたセンサーからのデータを、インターネットを介して病院の専門医が判断することにより、在宅で標準的な医療を受けられれば、在宅医療に従事する医師もより円滑かつ正確な医療を実現することができるでしょう。

 深刻な高齢化を見据え、医療分野の研究成果の一刻も早い実用化を図るため、国主導で日本医療研究開発機構(AMED)が設立されました。莫大な予算が投じられており、治療薬開発・医療機器開発、病態研究等を通じて医療の発展・向上を推進するため、プロジェクトが進められています。医療機器開発や医薬品開発部門の基礎的部分(ACT-MSやACT-M)についても、支援事業を行っています。

医療機器に参入して成功するには、ニーズを的確に把握するため、複数の専門家へのリサーチが必要です。病院では多忙な医師が同じ専門分野として大勢集まっている学会は、ニーズを知るために最適な機会です。自社の有する技術やノウハウを生かせる分野を検討し、学会に行ってみてください。

 

ものづくり×大学×医療現場連携による医療機器開発を支援

   講師:公立大学法人兵庫県立大学 先端医工学研究センター センター長 

     小橋 昌司 氏

 

 

   講演内容の要旨は以下のとおりです。

兵庫県立大学には医学部はありませんが、前身の姫路工業大学からの約30年間に蓄積された医工学の研究シーズ数多く存在します。しかし残念なことに、これまで製品化されたものは一つもありません。そこで様々な学部、学科の研究成果や技術を集結させ、医療現場からのニーズとものづくり産業との連携の促進、実用化・産業化の推進を目的に、兵庫県立大学 先端医工学研究センター(AMEC)が設立されました。「先端医療情報部門」、「先端医療デバイス部門」、「生体材料部門」、「病院データシステム部門」、「健康スポーツ医工学部門」の5部門に分かれおり、企業との共同研究講座の設置や、産学協働による実用化研究や、実際の製品化に向けて取り組んでいます。また、医産学官組織との連携を強化し、医療ヘルスケア機器開発に対応すべく、神戸大学大学院医学研究科・医学部附属病院とのクローズドセミナーの実施や、医工学研究シーズの公開を行っています。また、実用化においては研究成果の知財権利化も必須であるため、アドバイザーの支援や派遣も行っています。

姫路駅前には、サテライトラボがあります。医工学に関する総合的な相談窓口や共同研究支援の支援、ビデオ会議やネット会議の出来る駅前会議室や、深層学習用ワークステーションなど共同利用機器を設置し、医産学官連携の支援をしています。

医工連携のコンソーシアムも運営していますので、ご入会をお待ちしています。

2022年には、「兵庫県立はりま姫路総合医療センター(仮称)」に、「兵庫県立大学医産学連携拠点(仮称)」を設置する計画が進んでいます。実際の医療現場という利点から、医療機器開発のスピードアップや、医療ニーズ、医師の紹介など、医療と産業の架け橋となる事をめざしています。

こういったことから、技術相談や共同研究、自社の技術の応用相談、大学の成果の実用相談など、企業の皆様は大学を積極的にご活用ください。

 

今回は、97名の方にご参加いただきました。ご多忙の中ありがとうございました。

 

第3回は11月14日(木)に開催します。

テーマ『どのように進めるロボット化?~ポイント・導入事例~』 詳しくはこちら

企業の課題に応じて適切なロボットやシステム構築を支援する“ロボットシステムインテグレータ”をお招きし導入のポイントなどお話いただきますので、ご参加をお待ちしております。


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