第1部
医療機器・ヘルスケア分野のイノベーション戦略
名誉所員 妙中 義之 氏
日本の医療分野の研究開発の司令塔機能として、革新的な研究開発及び、医療の国際展開を行うため、AMED(国立研究開発法人日本医療研究開発機構)が創設されました。AMEDが中心となって進める第2期の健康・医療戦略では、医療機器・ヘルスケアプロジェクトをはじめ、6つの統合プロジェクトを定め、プログラムディレクターのもと、各省の事業を連携させ、基礎から実用化まで一元的に推進していくこととしています。
医療機器・ヘルスケアプロジェクトでは、AI、ロボットなどの新技術を融合的に活用し、診断・治療の高度化や、予防・QOL向上に資する医療機器・ヘルスケアに関する研究開発を行っており、基盤となる基礎研究から実用化と医療現場への普及などの支援、医療機器の実用化のための効率的なシステム体制の整備、ベンチャー支援の強化、異分野連携を推進しています。
ヘルスケアの定義・範囲も拡大し、支援の分野及び対象が介護、福祉、保健、スポーツ、職場、地域へと広がる中、今後は、医療機器のデジタル化を活用した、シームレスな支援を進めていきます。
医療機器開発においては、試作を繰り返す前に、開発マネジメントのステージゲートを最初から考え、医療現場・市場のニーズを精査するため、事業化アドバイザーの支援を受けることが必要です。
そのため、基礎研究から、事業化戦略、知的財産管理、薬事関連法への対応、販売戦略、資金調達など、事業化を加速するために必要なあらゆる分野のコンサルティングを行う、誰でも無償で利用可能な医療機器開発支援ネットワークを構築し、支援を進めていますので、是非ご活用ください。
第2部
ヘルスケア事業への参入事例とその結果
企画開発主任 南原 徹也 氏
ヘルスケア産業に参入するにあたり、医療機器ビジネスのための座学を中心とした人材育成プログラムと、次世代医療機器に関する実習をメインとした事業に参加し、基礎を固めた上で事業を進めました。
コロナ禍の中、製品の開発・販売を行ううえで、SNSを活用し、日本より先に感染拡大が進む欧米で必要とされているものを調査したうえ、感染症対策とバリアフリー化への対策として、ドアノブを握らずに扉を開けるアームスライダーを試作したところ、メディアの目にとまり、知名度があがり、市場調査の結果から製品化を決定しました。
また、独自の自社製品を継続的に作るため、東京都医工連携HUB機構の提供する各病院のニーズ情報やAMED(国立研究開発法人日本医療研究開発機構)が運営する医療機器アイデアボックスなどを活用しています。
新たにヘルスケア産業に参入して、成果を生み出すためには、事前の市場調査等を入念に行うとともに、3つのベクトル(自社のやりたいこと、できること、世間が求めていること)を揃えることが重要です。
第3部
兵庫県立大学先端医工学研究センターの活動と今後の展開
先端医工学研究センター
センター長・教授 小橋 昌司 氏
兵庫県立大学先端医工学研究センター(AMEC)では、5つの部門により、医産学連携支援を進めています。
第一に、人工知能を活用した診断・診療支援システムを開発する先端医療情報部門。第二に、高精度計測技術とシミュレーションの融合による新たな医療機器開発を行う先端医療デバイス部門。第三に、新生体適合材料の研究や人工細胞を使った病気の検出などを研究する生体材料部門、第四に、電子カルテ、PHR ※1などを用いた人工知能診断治療支援を行う病院データシステム部門、第五に、ヘルスケア、リハビリ、看護支援システム、工学的な生体計測システムを開発する健康スポーツ医工学部門です。
また、医療ニーズに応えるための基礎研究を推進し、医工連携によるニーズ・シーズの探索、学外ものづくり企業と共同での研究開発を進めていきます。
2022年4月には、県立はりま姫路総合医療センター(姫路市)が開院し、院内教育研修棟に臨床現場と直結して医療機器開発、実用化推進、人材育成を行う、先端医療工学研究所(仮称)を設置します。
※1 PHR(パーソナルヘルスレコード):個人の健康・医療・介護に関する情報