第1部
人間特性の研究に基づく最新のスポーツギアとサービス
執行役員 スポーツ工学研究所長
原野 健一 氏
「人の動きを科学」し、独自開発した素材や構造設計技術により、アスリートだけでなくすべての人々の可能性を最大限引き出すような革新的な技術、製品サービスを継続的に創出することが、スポーツ工学研究所のビジョンです。このビジョンは、アシックスの前身「鬼塚株式会社」の創設者鬼塚喜八郎氏の信念で、今も引き継がれています。 アシックスでは、新型コロナウィルスの影響が大きかった4~5月に、世界12か国の方々を対象としたランニングに関するアンケートを行いました。その結果、回答者1万4千人の約75%が、運動の重要性を認識し、今後も継続したいと考えていることがわかりましたが、いわゆるコロナ禍の前は、人が新たに運動を始めること、運動を継続することはハードルが高いことから、モノ(製品)とコト(情報)の双方からランナーの成長を支援するシステム構築に取り組んできました。
昨年発表したランニングシューズは、エコランニング(より少ないエネルギーで、より長く、楽しく、早く走る)をコンセプトに、ランナーの動きを分析した結果、足首角度の変化に注目しソールに独特なカーブをつけることで消費エネルギーを抑えています。スマートシューズ「EVORIDE ORPHE」(エボライド オルフェ)は、スタートアップ企業の「no new folk studio」と共同開発したもので、接地パターンや角度、ストライドなど、ランニング中の足の動きをデータ取得して可視化し、総合的に採点してフィードバックするほか、走りながらヘッドホンなど音声でコーチングを受けることもできます。
また、ランニングの際、腰に着けて走ることで全身のフォームを可視化できるランニングモーションセンサや、導電性ウェアなどの共同開発のほか、アシックスのウェアラブル端末の技術と数多くのデータを活用して、ビギナーからシリアスランナーまで、それぞれの目的とレベルに応じてカスタマイズされたアドバイスやトレーニングプログラムなどの提供も行っています。
昨年東京に開設した都市型低酸素環境下トレーニング施設「ASICS Sports Complex TOKYO BAY」は、2本の50mレーンを備えたトレーニングルームやプールエリアなど、大きな部屋全体が低酸素状態の上、気圧は常圧なので、安全かつ効率的にトレーニング効果を発揮します。生活習慣病の予防、改善効果も認められており、認知症に関する産学連携による研究も進めています。
アシックスでは、人生100年時代、幸福で健康な人生を送るためのサポートとして、個人及び企業向けに「アシックスヘルスケアチェック」を実施しています。健康診断の体力版で、歩行の健全度や身体の健全度などから健康寿命を予測し、今後のリスクとその予防として筋トレやストレッチについてアドバイスしています。
最後に「良い歩き方」のポイントについてご紹介します。やや早く歩く、肩の力を抜き肘を後ろへ引く、接地はかかとから、といったことを意識しながら、まずは10分歩くことを習慣化することをお勧めします。
第2部
福祉のまちづくり研究所の取り組み
~介護ロボット・福祉用具の開発支援について~
介護ロボット開発支援・普及推進・研修センター
(ひょうごKOBE介護・医療ロボット開発支援窓口)
作業療法士 安藤 悠 氏
高齢化と人口減少が進行し、介護利用者が増加する一方、介護従事者は不足しており、高齢者の自立支援や質の高い介護、介護従事者の負担軽減を目的として、介護現場では介護ロボットの導入が進みつつあります。講演では、福祉用具の市場から介護ロボットの説明、これまでの介護ロボット開発の課題や開発のポイント、実際の開発事例として、当研究所が病院、福祉施設に隣接する環境を生かした、自己導尿のためのカメラシステム(「esコート」)など紹介しました。 福祉のまちづくり研究所では、企業技術を活かした機器及び介護現場に本当に必要な機器開発を目指し、企業に対する介護ロボットの開発支援を行っています。
「ひょうごKOBE介護・医療ロボット開発支援窓口」では、企業からの相談に則した形で専門家からのアドバイス支援や試作機器の実証評価を行っています。機器の実証評価は、可動式の壁により住空間を再現できる「次世代型住モデル空間」において、様々な評価機器を使用し、介護ロボットの有用性や効果を検証しています。また、「ニーズ・シーズ 介護ロボサロン」において、開発企業側が介護現場のニーズを聞く機会となる「お困りごと発表会」や「施設見学会」を開催しています。
今後、情報収集や新規参入の検討、開発製品についての相談など、介護ロボットに関するお悩みがありましたら、お気軽にご相談ください。