第1部
自動車産業の現状と今後の動向
~自動車産業の技術動向(CASE動向など)~
技術担当顧問 松島 正秀 氏
今、自動車業界は100年に1度の大変革変換期を迎えています。1908年に米国のフォードが自動車の量産化に成功して以来、自動車生産は、世界の主要産業へと発展。一方で、販売台数の増加とともに排気ガスによる環境負荷が問題視されてきました。「地球環境に優しいEV(電気自動車)の普及は自動車メーカーに課せられた使命」として、業界を挙げてEVの技術革新が進んでいます。
EVの基本構造は、床下に薄型のリチウムイオン電池を敷き詰め、駆動輪にモーターを設置するというシンプルなもの。エンジン開発のノウハウが不要なことから、米国のテスラや中国のBYDといった新興メーカーの躍進も目立ちます。「BYDはもともとパソコンや携帯電話のバッテリーのメーカーです。EVは走る、曲がる、止まるといった基本動作をはじめ全てが電動。自動車メーカーが半導体や電子機器のメーカーと手を結ぶ機会は増えるでしょう。
技術改革が著しいEVですが、エンジン車並みに大衆化するにはコスト面などクリアすべき課題も多々あります。その最たるものが、リチウムイオン電池です。原料のコバルトが高額なのと、エネルギー密度が低く1階の充電における航続距離の短さが指摘されています。現在の液体式のリチウムイオン電池よりも体積当たりのエネルギー密度が高い全個体タイプの開発が進んでおり、航続距離の大幅アップが期待されています。実用化は早くて2030年頃といわれ、一気に本格的なEV時代に突入することも考えられます。
第2部
新型EVレーシングカーにこめられた次世代EVの"可能性”
パワートレイン開発部 担当主管 進士 守 氏
長年にわたり、日産のレース活動の第一線で活躍し、現在は主にEVレーシングカーのパワートレインの開発を担当しています。自動車メーカーにとって、レースは自社の最新技術を披露する場であり、その技術は市販車にフィードバックされます。「主要メーカーは開発の多くをEV関連に割いています。フォルクスワーゲンがエンジン車のレースから完全撤退したように、今やレギュレーションが電動化でなければ参戦する価値がないのです。」
FIA(国際自動車連盟)主催の世界選手権やワールドカップはここ10年ほどで次々と電動化が進んでおり、2014年には世界最高峰のF1もハイブリッドターボに切り替わりました。
今、世界中のファンの注目を最も集めているFIAのレースが、2014年にスタートしたEVの「フォーミュラE」です。出場チームは、主催者供給のシャシー、車体、タイヤを使い、パワートレインのみ開発が認められています。これは開発費の高騰を抑え、幅広いメーカーの参戦を募りたいからです。
サーキットといえば郊外にあるものですが、走行音が静かで排気ガスのでないフォーミュラEには、世界の主要都市から市街地開催の誘致が相次いでいます。「レーシングカーにはいずれ実用化される最先端技術が詰まっています。各車の性能の差が小さいので、市街地でスリリングな攻防が繰り広げられます。是非ご覧いただきたい。